行儀よくまとまらず、等身大の自分を武器に
清水 津田君が初めて声優の仕事をしたのはいつでした?
津田 1995年の「H2」にオーディションで選ばれて参加したのが最初です。それまではずっと舞台に出演していました。
清水 その頃はどんな演技スタイルだったの?
津田 「うまく演じよう」と思ったことは一度もなく、リアル志向の表現をゴリゴリ追求していましたね。
清水 「H2」のオーディションでどんなところが評価されたと思う?
津田 アニメということを意識せず、舞台でやってきたリアル志向の演技で挑みました。でもそれが逆に新鮮に感じてもらえたのかも。
清水 オーディションで津田君を発見した人は、むしろそこに惹かれたんでしょうね。役者は世界の雑多な要素を取り込んでいく仕事だから、その材料は多ければ多いほどいい。だから、既存のアニメで見たものをなぞるようでは、演技の引き出しも作り手の想定内にとどまるし壁に突き当たってしまう。性格・経験・アニメ以外の興味といったあらゆるバックボーンが役者を形作るわけだから。
津田 実は「H2」以前はアニメをあまり見たことがなく、だからオーディションでは今までやってきたことをぶつけるしかなかったんです。
清水 そうしたありのままの津田君が「発見」され、その後もいろいろな人たちに求められていくうちに、津田君というキャラクターが次第に形作られていったんじゃないかな。どんな才能も「発見」されないことには世に出られない。オーディションの意義はまさに原石の「発見」にあるわけで、今回のキミコエ・オーディションでも自分のすべてをひっくるめて、臆することなくありのままの姿を見せてほしいです。
津田 演技の世界に入って感動したのは、自分のネガティブな感情を表現してもいい、いや、むしろ面白がってもらえるんだっていうこと。こんな、ありのままの自分をさらけ出せる仕事はなかなかないですよ。
清水 そうやって自分をさらけ出せる人たちと一緒に仕事をしたいよね。
津田 子猫の小さい爪みたいな武器でもいいから(笑)、「なんだコイツ!」と思わせてくれる人と一緒に演技できるとテンションが上がりそう。
清水 こうやって津田君の心に火をつける、インパクトのある人たちの応募を待っています。
津田 最初から突出した技術を持っている人はなかなかいないから、正直そこはオーディションで求められていないはず。それより、プロの現場に長く携わって今さら生半可なものでは感動しない審査員の方たちに、「この子はもっと見てみたい」という可能性を感じさせる原石のようなもの。いわば等身大の若さでしか表現できないものを武器にすれば、道は開かれるんじゃないでしょうか。
清水 まったく同感ですね。前回のキミコエのレッスンで最初に話したのが、まさに津田君が言ったようなこと。既存のルールを疑って歯向かうことが、若さの特権。ルールに縛られて行儀のいい人よりも、自分の信じるものを貫いて積極的にルールを壊そうとする人、つまり自分を丸裸で見せられる人の方が「こいつ面白いじゃん」と目に留まると思います。ルールを壊したり歯向かった先に何があるのかは、我々が責任を持って見定めますよ。
津田 とにかくオーディションでは等身大の自分を恐れずにさらけ出してほしい。それはしんどい作業ではあるけど、そのぶん説得力のこもったエネルギッシュな表現が生まれてくるはずだから。
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