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声優 小野 賢章 × 音響監督 清水洋史 対談インタビュー vol.2
2022年01月27日
見届け人 小野賢章×清水音響監督
未来の仲間に捧げるメッセージ


②役者・声優 小野賢章さんの原点

第3回キミコエ・オーディションの見届け人を務める声優・小野賢章さんと、審査員を務める清水洋史音響監督によるスペシャルトーク。第2回は、キミコエ参加者たちの現在の立場と重なる、デビューからステップアップまでの時代を小野さんに振り返っていただきます。

──小野さんが芝居の世界に入ろうと思ったきっかけは?

小野「後で親から聞いたのですが、4歳の僕が戦隊ヒーローものを見ていた時に『この世界に行きたい』と言ったそうです。おそらく純粋に“戦隊ヒーローがいる世界”のことを言ったのだと思いますが、親は現実的に考えて劇団に入れてくれました(笑)。学生の頃は部活のような感覚で劇団での芝居を楽しみ、『大学は一芸入試でどこかに受かるだろう』と楽観して勉強をろくにしませんでした。ところがすべての試験で落ちてしまい、それをきっかけに『4歳からやってきた芝居を今さら大学で学ぶ必要はない』と思い直し、親を説得して芝居一本で生きていこうと決意したのです」

──芝居一本で生きていくにあたって、それまで学業と並立していた頃との違いを感じましたか?

小野「学校に行かなくなってから時間があり余るようになり、それまでの日常は学校で過ごす時間に守られていたんだなと痛感しましたね。また生活環境の変化として、親から『自分で生きていきなさい』と一人暮らし用のマンションを用意され、実家を出ることになりました。家賃を稼ぐためにバイトを始めたけど『この生活に慣れたらいけない』と思って20歳で辞め、親のすねをかじりながら『どうすれば演技の仕事をもらえるようになるんだろう』とひたすら考える時期が3年ほど続きました」

──当時は声優の仕事を行っていましたか?

小野「その頃はまだほんの少しでしたね。当時はアニメの芝居について全然理解していなくて、自分が出演した作品のオンエアを見ていて『この芝居だと需要がないな』と痛感しました」

──需要がない、というのはどういう点が?

小野「とにかく下手くそ。会話のテンションに対する声の距離感が合っていなくて、キャラクターから出てくる台詞に違和感しかなかったんです。芝居をしていない人でも、普段の会話で『この人の距離感はおかしいな』と思うことがありますよね。あんな感じです。この違和感をなくすことが課題だなと気づき、それからはアニメの芝居を猛勉強しました。時間だけはあり余っていたので、名作と言われる作品をレンタルショップで全巻借りてひたすら見ましたね」

──最初に直面した壁を独学で乗り越えたのですね?

小野「今でも気を抜いていたら距離感を誤ってしまいそうになりますけど(笑)。特にアニメが難しいのは、空間や相手との距離感を視覚でつかめる舞台とは違って、映像の中にある世界観を通じて想像しなければいけないこと。しかも映像が完成した状態で収録することは少なく、本当にゼロから作っていかなければいけない。それが大変なことであり、やりがいでもあります」

──役者として成長する転機になった作品や出来事はありますか?

小野「『テニミュ』(ミュージカル『テニスの王子様』)に出演していた頃、『テニミュ』でデビューした共演者たちに人気が集まるのを見ていて『4歳から芝居をしている俺の方が絶対うまいのに』とフラストレーションがたまり、自分が目立つような演技ばかり考えていました。そんな時、打ち上げで先輩に『シーンによって一番立たせなきゃいけないキャラクターがいる。それを考えられるようになると、もっといい役者になれるよ』とアドバイスを頂き、それまでの悩みや葛藤が一瞬で吹き飛びました。その言葉を聞いた瞬間『ちょっとトイレに行ってきます』と言って一人になり、トイレで大号泣しました(笑)」

──清水監督は小野さんと初めて一緒に組んだ作品を覚えていますか?

清水「小野さんが吹き替えを演じていた『ハリー・ポッター』シリーズのダニエル・ラドクリフの主演映画『ディセンバー・ボーイズ』じゃないかな。当時はまだ十代の子どもという印象でした」

小野「さっき話した“暗黒期”が始まる前ですね。声の芝居は『ハリー・ポッター』しか経験していなかった頃です」

清水「子役には演技のスキルよりも存在自体に価値があり、また小野さんが先ほど話していた“想像力で演じること”への嗅覚が、大人より子どもの方が直感的に優れています。そうした理屈で考えない素直な感受性が当時の小野さんは輝いていて、その良さを生かせるようのびのび演じてもらいました」

──そうした小野さんへのイメージはその後どのように変化しましたか?

清水「数年後に別の作品で再会した時には、見違えるように大人になってました。その成長は目を見張るものがあり、最近シリーズ作品で組んだ時も大いに助けられました。でも、今の暗黒期の話を聞いて腑に落ちましたよ」

──どんな点が腑に落ちたのですか?

清水「相手との会話の距離感のバランスについて、20歳そこそこで気づいたことです。だいたいの声優志望者はまず主役を目指すけど、そうすると『主役を演じるならこうしゃべろう』と自分のことばかり考えがち。でも小野さんはそうではなく、自分が相手と噛み合っていないことに早い時点で気づいた。これはとても大きなことです。物語を背負う主役はある程度自分本位の演技が許されるけど、脇役は周囲を観察していなければ務まりません。脇役をうまく演じるのは若い人だとなかなか難しいけど、小野さんは相手の物語をしっかり受け止めることができ、むしろ脇でこそ真価を発揮している印象があります」

小野「言われてみると最近は2番手の役が多いですね。2期まで続くアニメだと、1期ではBパート(後半)の終盤で一言台詞を話すだけという時もあります」

清水「それは制作サイドが小野さんの真価に気づいているから。存在感や芝居への取り組み方を通じて、そういうキャラクターが務まることを分かっているから任せるんです。そして主役の時にはちゃんとスイッチを入れ替えることができる。そういう意味で小野さんは今一番頼りになる演者ですね」

<第3回に続く>